1、地獄の季節 大統領×ユーリ***
人生におけるよい記憶というものはたくさんありすぎるし、ぼんやりしていることが多い。それを初めての記憶と限定するならば、故国ウクライナを出た日のものであろう。父と母、私、そして弟のヴィタリーの4人で大きな船に乗った。まだ小さい弟にこの日の記憶があるかどうかはわからないが、不安に押しつぶされそうで今にも泣き出しそうでもあった。
「来いよ、ヴィタリー!上に登って向こうの海を見てみようぜ。広い海が見える」
「・・・・・・・・・」
「泣くなよ!いいか、この船は海賊船で俺はたくさんの手下を従えた海賊のおかしらだ」
「かいぞくせん・・・?」
「そうだ、海に出ればもう怖れるものは何もない。俺達は誰よりも強い海賊なんだから」
「ぼくが・・・・」
「そうさ、海賊ユーリ様の弟なんだから・・・・ヴィタリー、敵が近づいてくるかもしれない、見張りを頼む」
「わかった」
弟の手を引いて船の奥へ探検に向かった。本当はヴィタリーよりも自分の方が泣きそうになっていたが、もっと不安そうな弟の顔で勇気付けられた。子供など単純なものだから、一度海賊ごっこなど始めてしまえば、不安などはすぐになくなってしまう。そしてこの頃から私は弟の前では強い兄を演じるようになった。
最悪の記憶ははっきり覚えている。その日、私は何度も訪れたことのある西アフリカのとある国にいた。地獄というものをまだ見たことはないが、この国に入るたびに感じる灼熱の太陽と人やものが腐っていくすえた匂い、絶え間なく聞こえる拳銃の音と悲鳴などは、地獄という場所とたいして違いはないだろう。さらにその日は最悪の経験までした。武器商人としてあらゆる紛争地帯を渡り歩いてきた私であったが、その日まで自らの手で人を殺すということはなかった。
「俺に感謝しろ。親戚の敵をとるチャンスを与えてやる。ただ殺すだけではおもしろくないからな」
自称大統領の残虐な独裁者はこう言って笑った。
「戦争の王よ、俺はお前に感謝している。お前から買った武器のおかげで、人を殺す手間が随分はぶけたからな。殺されたやつだって今頃感謝してるさ、この白人のおかげで仲間と一緒にまとめてあっという間に死ぬことができたのだから・・・・切れ味の悪い刃物で体を切り刻まれるよりもよっぽど楽だろう」
「確かにそうだが、私は自分の商売道具で人を殺したことは一度もない」
「慣れれば簡単だ。手伝ってやろうか」
「いや、いい」
だが彼は無理やり私にも拳銃を握らせ、私の商売敵であり、親類を爆殺した男に銃口を向けた。
「いやならやめてもいい。お前の武器がなければ俺は戦えない。お前がたった一言やめろといえばこの男は命拾いをする」
顔を背けたが手も足もガタガタと震えた。銃声が聞こえ、血が飛び散った。
「やめろ・・・」
私は力のない声を出した。
「よくやった、俺達は最高の共通体験をした。この絆はもう決して切れることはない。お前を大統領の客人として扱い最高のもてなしをしてやろう。まずはこれで一服しろ」
安ホテルの安物の机の上にコカインの白い粉が置かれた。続けて見たことのない色の粉もその上に振りまかれた。私はその粉を勢いよく吸い込み、そこで意識を失った。
吐き気のするような血の匂いで目が覚めた。冷たい石の台の上に体を押さえつけられている。手足は固く縛られ、少しも動かすことができない。少しずつ目が慣れてくる。服はすべて取られ裸にされているらしい。
「いつもりっぱなスーツに身を包んだ戦争の王も裸になればこんなに青白く細い体をしているのか。今の時代に生まれたことを感謝するのだな。昔ならこんな体ではまともに戦えはしない」
「ここはどこだ」
「宮殿の地下室だ。最高のもてなしをすると約束しただろう」
「これがもてなしか、ここは拷問部屋だろう」
「相手によってはそうなるかもしれないが、最高の快楽を与えられる者もいる。どっちにしろこの部屋に入れるのは特別な人間だけだ。普通に処刑するなら数十人をまとめて立たせておけばよい。わざわざ一人をここに入れ、特別な殺し方をするのはよっぽど気に入っていたやつだけだ」
「ここで何人殺した!私も殺す気か」
「勘違いするな。俺はお前をもてなしたいだけだ。まあお前の反応によっては命を失うことがあるかもしれないが・・・・」
独裁者の悪い趣味か。ただ陵辱したいだけなら気絶している間にさっさとその場でやってくれればいいものを・・・わざわざこんな部屋に連れて来て・・・・覚悟を決めて目を閉じた。男同士の経験はないわけではないが、そっちの体験は初めてである。こんな残虐極まりないような男にやられたくはないが、逃げられる場所ではない。
「震えているようだな・・・・あらゆる戦場を飛び回った戦争の王がこれぐらいのことで震えるとは・・・」
体の中心に指を入れられ、こじ開けられた。相手は独裁者だ。思いやりなど期待してはいけない。怖ろしい叫び声がこだました。初めての感覚は自分でも信じられないほど大きな叫び声を上げさせた。あまりの痛さに泣き叫ぶが逃げることはできない。
体に入れられているものが独裁者のものではなく、固い物質だと気がついたとき、再び絶叫した。それがなんであるのか、見なくてもとっさにわかってしまった。それは私がもっともたくさん売った商売道具。その硬い半分が体に埋め込まれ、直もきりきりと押し込まれていく。その異様な感覚と痛みと恐怖で叫び声を上げ続けた。
「さすがの戦争の王も体の中から撃たれるのは怖いらしいな。みんな同じだ。恐怖で絶叫し気が狂ったようになってしまう。こういう時の顔は白人も黒人も変わりはない。同じ顔をしている。中から撃たれれば体は砕け散り見るに耐えない姿に・・・・」
「やめろ!やめてくれ・・・・」
なぜか、ヴィタリーの顔が思い浮かんだ。今にも泣き出しそうな顔をした小さな弟。
「心配するな、これはゲームだよ。ちょっと悪者に捕まっただけだ。どうしたらいいか、お前考えてくれ」
とっさにウクライナの言葉で話しかけた。忘れかけていた故郷の言葉と弟の顔、少し心が落ち着いてきた。
「やっぱりお前は戦争の王だ。俺はお前が気に入った。大いに楽しめ」
体に入れられた拳銃は抜かれ、代わりにその独裁者のものが差し込まれた。楽しむなんていう状況ではとてもないが、とりあえず楽しんでいるような喘ぎ声だけは出しておいた。その声にますます反応して、激しく突いてくる。この男との関係は当分切れそうもない。こんな状況ですら楽しまなければいけないのだろうか。ともあれ私は自分の鉄則を守ることができてよかった。
「武器商人の鉄則、商売道具を使ったり、それで死んではならない」
−第1話、完ー
後書き
2回目に映画を見ているとき、まず目に浮かんだのがこのシーンで・・・(笑)とんでもない思いつきですみません。
2006、1、12
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